『アホでマヌケな“エクスタシー論文”』

 けっこう前に雑誌『サイゾー』に発表した記事の元原稿公開。

■アメリカ科学振興協会の発行する科学誌『サイエンス』に、非合法ドラッグ・エクスタシーの危険性を示唆する論文を“撤回する”記事が発表された。

■撤回した論文は、アメリカ・ボルチモアにあるジョンズ・ホプキンス大学の研究班が前年9月に同誌に発表したものだ。今回、彼らが出した記事の内容は“エクスタシーを遊び用に使われる量で摂取すれば、厳しいドパミン神経毒性を受けることになるだろう”という危険性の示唆部分の撤回であった。

■エクスタシー。今やそれは、日本でもっとも注目を浴びている非合法ドラッグだと言っても言いすぎではない。警察庁が発表した昨年度上半期(1~6月分、8月7日付)の薬物犯罪統計データによれば、すでにエクスタシーの押収量(30万642錠)は、昨年度押収量を超えて過去最高となっているほどなのだ。

■ではこの薬は一体何なのか。化学名称を“MDMA(3,4-メチレンジオキシ-メチルフェニルアミノプロパン)”といい、日本では覚せい剤の一種を化学合成して作られる“合成麻薬”として分類されている。末端価格にして6000円から8000円ほど。摂取の際に麻薬として期待される効果は、「他人との同調感」「多幸感」だと言われる。

■ヨーロッパにおいては、麻薬の中では摂取方法を誤らなければ比較的安全だとされているエクスタシー。その危険性について、わが日本、厚生労働省監視指導・麻薬対策課、山本氏はこう語る。「興奮/幻覚の二つの精神毒性のある薬ですから、依存性があります。また比較的新しい薬でもあるため、他の薬との相乗効果についてまだ研究が十分になされていないという問題もあります。錠剤に加工されているため、麻薬ながら危険に見られにくいというのもこの薬の特徴です」

■さて、アメリカの乱用薬物研究に関わっているNGO団体、DanceSafe(http://www.dancesafe.org/)によれば、純粋なエクスタシーが市場に出回ることはほとんどなく、またエクスタシーがヤミ取引される多くの場合、混ぜ物を加えられ、刻印のついたタブレットに加工された状態で出回っているという。

■エクスタシーとして売買されている錠剤のほとんどには、“エクスタシーと関連のない他の薬物などが混ぜ込まれていて”危険だと警告している。もちろんエクスタシー自体は当地でも違法なのだが、情報公開がなされつづけているのは日本との大きな違いだ。

■話を戻そう。サイエンス誌には、撤回した実験の内容がとてもアバウトなものだったことが報告されている。ミスの起きた原因は、研究所に同じ日に同じビンでエクスタシーと覚せい剤が届いたことと、二つのビンに貼られた内容物のラベルが、逆に貼られていたことだという。だから、その二つの物質を間違えたというのだから驚きである。もはやいくら言い訳をしたところで、研究所や製薬会社、大学の施設そのものも含め、杜撰な体制を敷いていたと言わざるを得ない。

■薬物研究において世界的に有名なジョンズ・ホプキンス大学の研究班が、このような初歩的ミスを犯し、間違った論文を発表すれば、世界的にその情報が“真”として広まってしまう。今回のような初歩的ミスから作られた論文が、諸外国の薬物規制にまつわる正しい政策構想を阻んでいたとしたら、彼ら研究者の責任は極めて重いと言える。

■薬物に限らず、重大なミス論文の発表は、本当に稀なケースなのだろうか。今回、少なくとも、知的と銘打たれたフェイク論文に翻弄され続けてしまった我々は、一体どの情報を信頼できるのか……。どうやら我々の選択眼と判断力が試されている。

参考資料:米科学振興協会『Science』03/09/12発売号

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